先生と私の三ヶ月
 先生と鯛茶漬けを食べた後は、お参りの続きをした。参道の真ん中には赤が美しい舞殿があった。
 囚われの身となった静御前が鎌倉に連れて来られて義経と対立する頼朝の前で舞いを舞った場所で、現在は神社のお祭りや、結婚式を行う場所になっているそう。

「静御前って、義経との悲恋の話が有名ですよね」
 先生がああと頷いた。
「義経を追いやった頼朝の前で舞いを舞うなんて、悔しかっただろうな」
「そうだな。静御前が強いのは、憎き頼朝の前で義経を慕う歌を詠んだ事だろう。頼朝に殺されてもいいという気持ちがあったんだろう。政子が頼朝をとりなしたから、殺されはしなかったらしいが」
「ここには悲しい物語もあるんですね」
「悲しい物語か」
 先生がため息をつき、何かを考えるように舞殿を見つめた。
 その表情はどこか沈んで見える。

「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。次は若宮に行くか」
 先生が右側に歩き出した。私も続いて歩いた。

 若宮をお参りしたあとは、実朝が奉られている白幡神社まで足を伸ばしてから、舞殿まで戻り、その先にある大石段を上ってようやく本宮まで行った。

 八幡神社ではハトは神聖な神の使いとされているらしく、本宮の前の楼門の額に掲げられている「八幡宮」という字の「八」が鳩の形をしていると先生が言った。言われてみると確かに鳩になっている。こういうちょっとした事を知るのが楽しい。

 先生は本当にいろんな事を知っている。私が質問するとすぐに答えてくれる。なんでそんなに知っているのって聞いたら、昔よく来た場所なんだと教えてくれた。

 もしかして、ひなこさんとも来たんだろうかと考えてしまった。
 先生が誰と来ようと関係のない事なのに、少しだけ胸が痛くなった。
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