先生と私の三ヶ月
「なんで私を見つめるんですか?」
「別に」
 先生が曖昧な笑みを浮かべる。
「気になります! 言いたい事があるなら言って下さいよ」
「あっ、そのネックレス、パリで俺があげたやつか?」
 先生が私の首元で視線を留めた。
「はい。あの、変ですか?」
「よく似合っているよ」
 穏やかな表情で先生が微笑んだ。
 先生の笑顔が素敵過ぎて、胸がキュンとする。
 なんか照れくさくて先生の顔が見られない。

「寒くないか?」
 俯いてもじもじしていると聞かれた。
 日中は暑かったけど、風が少し冷たくなっていた。

「少しだけ」
 先生が長袖の黒シャツを脱いで肩にかけてくれた。ふわりと甘い先生の香りがする。
 そう言えば、パリでも先生にカーディガンを貸してもらった。

「男の人がこういう事をするのってドラマとか映画の中だけだと思っていたけど、実際にあるんですね」
 クスッと笑うと先生が不思議そうな顔をした。
「こういう事とは?」
「女性に上着を貸すことです」
「俺だって誰にでも上着を貸すわけじゃない。ガリ子だから貸すんだ」
 先生の言葉にまた胸がキュンとした。
 本当に先生は私を大事にしてくれる。それがめちゃめちゃ嬉しい。
 嬉しくて勢いよく歩いたら、転びそうになった。

「ガリ子は危なっかしいな。ほら、手」
 先生が手を握ってくれた。
 今日はずっと先生と手をつないでいる。鶴岡八幡宮でも、小町通りでも。手をつないでもらえる事が嬉しい。
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