先生と私の三ヶ月
 部屋は先生の机のライトが点いているだけで、薄暗い。
 いつも座っている机の前に先生の姿がない。

 視線を部屋の中央の三人掛けソファに向けると、横になって目を閉じている先生の姿があった。

「先生?」
 返事の代わりにスース―という寝息のようなものが聞こえてくる。

 えっ、寝てるの?

 ソファ前のテーブルにはガリ子へというメモがあった。

【ガリ子へ 昼まで寝る。起こしたら殺す。望月】

 忍耐強い私もさすがにぷつりと何かが切れた。
 
 昼まで寝るですって!

 クリームあんみつを探して5軒もセブンをまわったのよー! 太腿が痛くなる程、自転車こいだんだからー! 起きろー! 望月ー! クリームあんみつを食べろー! 私の努力を無駄にするなー!

 と、心の中で叫び何とか気を落ち着かせる。

 トレーごと先生に投げつけてやりたいが静かにテーブルの上に置いた。
 これも仕事のうち。こんな事で怒っていたら望月先生のアシスタントなんて勤まらない。一度決めた事は最後までやり抜くのが私のモットー。だから、三ヶ月は耐え抜かなければ。先生がどんなに最低の暴君だろうと。 
 
「……ひなこ」
 立ち去ろうとしたら、苦しそうな声がした。

「……ひなこ」
 もう一度同じ単語が先生の口から漏れた。
 ひなこって誰?
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