先生と私の三ヶ月
 先生の家の前にタクシーが停まっていた。きっと黒田さんだ。
 鍵は開いているから黒田さんが中にいるんだ。

 二階の先生の書斎に黒田さんはいなかった。
 床には文字が印刷された紙が散乱している。

 倒れる直前に先生が読んでいた物のよう。
 もしかして新作の小説?

 一枚だけなら読んでもいいよね。
 ああっ、この文体は先生の小説だ。しかも読んだ事のないやつ。やっぱりこれは新作なんだ。

 望月かおるの新作がここにある。
 全部読みたい。

 紙を拾い集めようとした時、「葉月さん!」と呼ばれた。
 黒田さんの声だ。

「あ、違った。水森さん。どうされたんですか?」
 振り返ると右手にスマホを持ち、やや呼吸の乱れた黒田さんがいた。私がいる事に気づいて駆けつけて来たんだろか。

「先生の荷物を取りに来たんです。黒田さんでは全部わからないでしょう」
「助かります。では、寝室の方お願いできますか? 私は先生の仕事関係の道具をまとめますから」
「ええ、わかりました」
 床に散らばっている原稿を拾い集めてから行こうとしたら、「それは私がやるので、すぐに寝室で用意して下さい」と言われた。

 先生の新作、読みたかったのに残念。
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