先生と私の三ヶ月
 明日、先生に会ったら小説の事を聞いてみようか。黒田さんの企画書の事も聞いてみようか。ヒロインは私をモデルにしたんですかって聞いたら、答えてくれるだろうか?

 でも、怖い。そうだと言われたら、先生が私を愛してくれたのは小説の為だったと認めるしかない。偽物の恋だったと知るのが怖い。

 胸の奥からため息が出た。
 自分の部屋で頭を抱えていたら、ジーパンのポケットに突っ込んであったスマホが鳴った。

 知らない番号からだ。

「上原です」

 電話に出ると明るい女性の声がした。

「葉月さん、小説は全部お読みになりましたか?」
 上原さん、心配して電話をくれたんだ。

「はい。読みました」 
「どう思われましたか?」
「素晴らしい作品だと思いました。さすが望月先生です。ラストは本当に感動しました」
「葉月さん、それだけですか?」
「それだけとは?」
「怒ってないんですか? 葉月さんの事を勝手に書いたんですよ」

 胸が痛くなる。

「確かにヒロインの境遇は私と重なってショックでした。先生を信用して話した事がエピソードとして書かれてありますから。でも、私は先生を許します。先生はずっと小説が書けなくて苦しかったんです。先生にとって小説が書けない事は生きたまま死んでいるようなものだって黒田さんが言っていました。先生の苦しかった想いを考えると私は何も言えません」

 騙されていたとしても、やっぱり私は先生を許したい。
 愛されていなくても先生が好きだから。
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