先生と私の三ヶ月

12話 契約終了

 9月25日。先生が退院して来た。
 真奈美さんに連れられてタクシーから降りた先生は少し痩せた気がした。

「先生、お痩せになりましたね」
 リビングのソファに腰かけた先生に声をかけた。

「二日も、絶食していたからな。昨日から食事が出来るようになったが、ふらふらするよ」
「寝室を掃除しておきました。お休みになりますか?」
「いや、今日は起きていたい。もう寝てるのは飽きた」
「お兄ちゃん、ダメよ。ちゃんと休んでいなきゃ」
 真奈美さんが釘を刺すように先生を見た。
「充分休んだ」
 はあっと呆れたようなため息を真奈美さんがつく。
「全く人の言う事を聞かないんだから。今日子ちゃん、お兄ちゃんが無茶しないように監視しといてね」
「はい」
「真奈美、午後から幼稚園の用事があるんだろ? ほら、さっさと帰れ」
 追い払うように先生が手の甲で仰ぐ。
「私を追い出して今日子ちゃんとイチャイチャしたいんでしょう?」
 先生が「そうだ」と頷いた。

 以前の私だったらそんなやり取りに顔を赤くしていたけど、今は胸が苦しい。気を抜いたら泣きそう。先生とお別れすると決めたけど、こうして3日ぶりに先生の顔を見ると心が揺れる。

 一層の事、先生の事を大嫌いになれたらどんなに楽なんだろう。
 小説の為に利用されたとわかっても、まだ先生を愛している。
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