先生と私の三ヶ月
 真奈美さんが帰ったあと、先生は心配そうな視線を私に向けた。

「風邪は大丈夫か?」
 優しい言葉に胸が熱くなる。
 この優しさは本物だと思いたい。

 けど、違うんだ。

「はい。すっかり治りました」
「無理はするなよ」
「先生も無理しないで下さいよ」
「ああ、わかっている。今日子に心配かけるような事はしないよ。おいで」
 水色のシャツに、グレーのスラックス姿の先生が両腕を広げた。先生に求められたら拒めない。好きなんだもの。

 吸い込まれるように先生の腕の中へ行くと抱きしめてくれる。
 久しぶりの先生にドキドキする。

「今日子の匂いがする」
 先生が私の首筋に鼻をあてる。

「汗くさいですよ。掃除していたから」
「いい匂いだよ」
 くんくんと先生が私の匂いを嗅ぐ。
 先生はどんな気持ちで私に触れているの? また小説のネタでも探しているの? まだ私に利用価値はあるの?

「今日子、嫌だったか?」
 戸惑ったような先生の目と合った。
 きっと私が笑っていなかったから、心配になったんだ。
 こういう先生を見ると、先生の気持ちが嘘とは思えない。
 私の事が本当に好きだって信じたくなる。

「先生、キスして」
 すがるように抱き着いた。
 嘘でもいい。今だけは甘えたい。

「今日子、好きだよ」
 唇が重なった。
 先生の言葉に心が掻きむしられる。
 苦しくて、切なくて。

 先生の言葉を信じたい。
 けれど、信じちゃダメなんだ。
 私は先生にとって替えがきく存在なんだから。

 恋人でいたかったら、ちゃんと割り切らなくてはいけないんだ。
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