先生と私の三ヶ月
 次の日の夜、サンルームに出ている先生にも甘えた。
 群青色の空に浮かぶ青白い三日月を見て、先生が可愛いと言った。私も可愛いと思った。

 同じ物を見て、同じ事を思った瞬間、幸せを感じる。

「また今夜も俺の所で眠るか?」
 先生の肩に頭を乗せていたら、私の髪を梳きながら先生が言った。

「迷惑ですか?」
「いや」
 優しく微笑む先生を見て好きが溢れた。
 愛されていなくてもいい。今一緒にいられればいい。

 私からキスすると、先生が応えてくれる。
 キスが深くなると、先生が慌てたように離れた。

「どうした? 最近は積極的だな?」
 呆れたような、困ったような目で見つめられ息が苦しくなる。
 触れていないと先生の心がさらに離れてしまいそうで怖かった。

「今日子、何かあったのか?」
 黙っていると心配そうに見つめられる。
 黒目の大きい瞳に見つめられると胸がキュンとする。最初に惹かれたのはキラキラとしたその目だった。

「ねえ、先生。ちゃんとご飯はバランスよく食べて下さいね。それから徹夜もあんまりしちゃダメですよ。疲れたらちゃんと休んで下さいね」

 急に私がいなくなった後の先生の生活が心配になった。

「お酒はほどほどにして下さいよ。小説を書いている時は、ご飯食べる事を忘れちゃダメですよ」
 他にも言いたい事が沢山あった気がしたけど、忘れてしまった。

「わかっているよ。気をつけるよ」
「絶対ですよ」
「不摂生な生活をしていたら今日子が叱ってくれ」
 ポンポンって頭を撫でられて、胸が締め付けられる。

 先生に私との生活が終わる事をまだ言っていない。
 面と向かって契約終了を言ってしまったら、先生にすがってしまいそうで言えなかった。
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