先生と私の三ヶ月
 もう少し私に勇気があれば、小説の事を聞いて、先生の本当の気持ちを確かめる事が出来たのかもしれない。

 まだ先生の口から小説の事を聞いたわけじゃない。
 私への気持ちが偽物だったと聞いた訳でもない。

 だけど、聞いたら立ち直れないぐらい落ち込むのを知っている。
 私もひなこさんの日記を先生の留守中に読んでしまった。
 上原さんが言った通りの事が書かれてあった。

 先生の心に私はいない。
 いるのはひなこさんと文君だけ。

 だから何も聞かない。
 これ以上、傷つきたくないから。

 最後まで先生に辞める事は言えなかった。
 代わりに手紙を残して来た。
 今までのお礼と、新しいアシスタントが来るから心配がいらない事を書いた。

 先生にとって私は替えがきく存在だから、私が辞めてもきっと先生が困る事はない。

 さようなら、先生。

 玄関の扉を開けた。
< 293 / 304 >

この作品をシェア

pagetop