先生と私の三ヶ月
「先生は小説を二つ書いていたのですか?」
 そうとしか思えなかった。前に上原さんから渡された小説は夫に愛されていない自信のないヒロイン視点で書かれていた。

「上原さんが持って来た小説とこちらの作品は全然違います」
「読んだのか?」
「はい。読んだから上原さんが言っていた事は本当だと思ったんです」
「そうか」と言って先生が静かに膝の上で手を組んだ。
「きっと上原が持って来たのはボツ原稿だろう」
「ボツ原稿……。世には出ないって事ですか?」
「ああ。あれは失敗作だ。望月かおるの新作として世に出るのは小説家の男が主人公のこの小説だ。今日子が許せばの話だが」
「えっ、この小説が」
「黒田とも相談したが、お前の許可がなければこれもボツにする。だからちゃんと読んで欲しい。お前が許してくれるのなら、これを望月かおるの新作として出版する。しかし、お前が嫌だと言うのなら、ちゃんと捨てる」

 大きな黒目は今まで見た事のない程、真剣だった。
 まさか先生の新作を出すかどうかの判断が委ねられるなんて。
 先生がここまで言ってくれるのなら、私の個人的な感情は抜きにしてちゃんと読まなければいけない。

「わかりました。読ませていただきます」
 姿勢を正し、原稿に向かった。
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