先生と私の三ヶ月

3話 流星くん

 カラオケルームにあまり上手くない平井堅の『楽園』が流れている。マイクを握りしめて歌っているのは望月先生。

 二週間、望月先生の側にいてわかった事がある。先生の書く小説はとても素敵だけど、作者は最低だ。深夜のおつかいはさせないと言ったくせに、相変わらずコンビニに行かせるし、言いたい事は言えと言っておきながら、注意すると不機嫌になるし、ゴキブリが出ると大騒ぎするし、カラオケに付き合わせるくせに、歌は微妙だし。まあ、音痴って程じゃないけど。

 多分、普通の人は気にしないレベル。だけど、元ピアノ講師の私の耳には微妙に外れる音が気になって仕方ない。なんか、先生の歌聴いていると、痒い所に手が届かないようなもどかしい気持ちになる。しかも本人は自信満々。俺は少しも外していないって顔をするから憎たらしい。どうして先生はそんなに自信満々でいられるんだろう。あっ、同席している編集者たちのせいか。

 カラオケルームには今、編集者が5人もいる。今日、偶々、先生を訪ねて来た人たちだ。みんな違う出版社から来ているらしい。

 とにかく、この人たち、先生を持ち上げる。大げさに拍手をして、先生が歌い終わる度に感動しましたなんて涙を浮かべている。背中が痒くなる程のお世辞も言うし。真に受けてるのか、先生は気持ち良さそうに二時間も歌い続けている。完全に先生の一人カラオケ。なんで私、連れ出されたんだろう。帰りたいな。もうすぐで午後3時。そろそろ夕飯の買い物に行きたいんだけどな。

「先生、そろそろうちで書いて下さいよ」
 先生がタブレットで次の曲を探していると、白髪の編集者が口にした。
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