先生と私の三ヶ月
「望月先生はもう終わりだな」
 カラオケ屋の外で、黒縁眼鏡と白髪の編集者が話していた。

 終わりって何?

 盗み聞きはいけないと思うけど、足を止めて物陰に隠れた。アシスタントとして先生の事は知っておきたい。

「集学館で新作を書くって聞いたから立ち直ったと思ったんですけどね。まだ書けないみたいですね」

 書けない?

「黒田さんも手を焼いているらしいですよ」
 二人の話に他の編集者も入って来た。

 今、物凄く聞いてはいけない事を聞いてしまった気がする。
 もしかして先生、小説が書けないの?

 言われてみれば望月先生の小説の新作は、三年ぐらい出ていない。
 でも、先生毎晩、何かを書いている。あれは小説じゃないの?

「やっぱり元奥さんの事がショックだったんですかね」
 元奥さんの事がショックって何? 先生、何かあったの?

 飛び出て行って、先生に何があったのか聞きたい。でも、先生の知らない所でこんな話聞いちゃいけいない気もする。

 だったら先生に直接聞く?
 辛い話だったらどうしよう。

 きっと辛い話だ。
 小説家が小説を書けないだなんて、いくら自信満々の先生でも悩んでいるよね。悩んでいるから言動がめちゃくちゃなのかな。
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