先生と私の三ヶ月
結局、編集者の人に何も聞けないまま帰宅した。帰ってからまだ夕飯の買い物をしていなかった事に気づく。

 カラオケの後、買い物をして帰ろうと思っていたのに、編集者たちの話が気になってすっかり忘れていた。

 買い物に行かないと。

 ママチャリの鍵を持って玄関ホールに出ると、バタバタと階段を降りてくる足音がした。

「ガリ子、つき合え」
 望月先生が現れた。

「先生、お帰りになっていたんですか」
「時間がない。とにかく来い」
 先生の手がいきなり私の腕を掴んだ。
 先生はいつも急すぎる。カラオケの次は何?

「急げ、もたもたするな」
 先生が私の腕を掴んだまま玄関ドアに向かった。

「どこに行くんですか?」
「お前免許持ってるよな?」
 先生が急に立ち止まって、こっちに視線を向けた。
 不意に黒目の大きい瞳とかち合って心臓が跳ね上がった。至近距離で見るイケメンはやっぱり目に毒だ。こんな何でもない事でドキドキしてしまう。

「どうなんだ?」
 黙ったままでいると、急かすように聞かれた。

「免許って、車のですか?」
「そうだ」
「あ、ありますけど」
「じゃあ、取って来い。今から川崎まで運転してもらう」
「川崎ですか?」
「ああ。川崎だ」
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