先生と私の三ヶ月
ガレージに行くとセダン型の黒いメルセデスベンツが正面から私を見つめている。おそらくSクラスで1000万円ぐらいするヤツだ。純ちゃんがよく見ていた車サイトに載っていた。

「まさか川崎までベンツを運転しろと?」
 先生を見ると、当然のように頷いた。

 勘弁してほしい。こんな高級車運転できる訳がない。
 ああ、胃が痛い。緊張で胃が痛くなってくる。
 
「先生、いくらなんでも無理です。先生の車なんだから、先生が運転すればいいでしょう?」
「今は運転できない」
「どうして?」
「さっきカラオケで酒を飲んだ。ガリ子も見てただろう?」
 言われてみればビールと何かのカクテルを先生が飲んでいた気がする。

「飲酒運転する訳にはいかないだろう」
「それで私に運転させる訳ですか」
「ガリ子はオレンジジュースしか飲んでいなかったからな」
「私が何を飲んでいたのかチェックしてたんですか」
「とにかく、急げ」
 先生が車のキーをこっちに投げた。反射的に受け取ってしまった。

「早くしろ」
 助手席に乗り込んだ先生が私を睨む。
 無理だと言っているのに。ホント、全然、人の話を聞かない人だな。

「ぶつけますよ。いいんですか?」
「修理代は要求しない。とにかく5時までに着いてくれ」
 今は4時半。
 先生は何だか急いでいるみたいだ。

 仕方ない。これもアシスタントの仕事だ。ぶつけてもいいって言うならいいか。ええーい、もうどうにでもなれと、運転席に乗り込んだ。
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