先生と私の三ヶ月
エンジンを起動させるとカーナビ―が作動し、先生が目的地を素早くセットした。

「さっさと出ろ」
「は、はい」
 震える手で重厚感あるハンドルを握り、恐る恐るブレーキを外してギアをドライブに入れた。ギアがマニュアルじゃなくて良かった。マニュアル操作なんて教習所で習ったきり運転した事はない。

 恐る恐るアクセルを踏み込むと車が当然のように前進し、ガレージから出た。思わず「おおっ」と声が出た。

「ペーパーか?」
 先生が疑わしい目を向けてくる。
 むっ。ペーパーとは失礼な。

「買い物に行くぐらいは運転してますけど」
 セールがある時は隣街のショッピングセンターまでいつもいってるし、雨の日は純ちゃんを駅まで送迎している。

「だったらもっと思い切って運転したらどうだ?」
「だって私が運転してるのはコンパクトカーですから。こんな高級車運転した事ないから怖いんです」
「車なんてみんな一緒だ。気にするな」

 ホンダのフィットとベンツを一緒にするのはどうかと思う。全くベンツには気軽さがない。

 スピードメーターだってフィットは180キロまでしかないのに、ベンツは260キロまである。それに見慣れないメーターが何個もあって、それだけで緊張する。でも、走り出してしまったのでそんな弱音を言ってる場合ではない。全神経を運転に集中して言われるまま道路に出た。

「ガリ子。その道、そのまま真っ直ぐで。ナビの道より早く高速に出られる」
「え! 高速乗るんですか?」
「高速を使えば30分で川崎まで行ける」
「私、高速は苦手なんですけど」
 基本的に下の道しか走らない。高速は純ちゃんの担当だ。

「道路なんてみんな一緒だ」

 先生は不慣れな私の運転が怖くないの? それとも、そんな事気にしてる余裕もないぐらい急いでいるの?

「わかりました。どうなっても知りませんよ」

 急にあれこれ考えているのが面倒になった。住宅街を抜け、大きな道路に出た。標識にインターの名前があった。ナビがインターの入り口に案内する。進路変更をして高速に出た。
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