先生と私の三ヶ月
 車は丁度ベイブリッジの白いH型の橋の入り口を通り抜けた。ハンドルを握る手はすっかり汗まみれだ。緊張でお腹が痛い。今すぐ高速を降りたいけど、先生が許してくれない。こうなったら絶対に5時前に川崎についてやる。さらにアクセルを踏み込んだ。速度が上がる。140キロ、150キロ、160キロ……。まだまだ走りに余裕がある。さすがベンツ。

「お、おい。ちょっと出し過ぎだ」
 先生が不安そうに私を見る。

「急いでるんですから仕方ないです」
「そこまで急がなくても」
「もっと上げますよ。260キロまで出るみたいですからね」

 私の中で常識的な何かが外れた。160キロで走ってても怖いとは思わなくなる。

「いきますよ」
 170キロ、180キロ、190キロ、200キロ! ははははは。ははははは。アドレナリンが上がる。はははは。ははははは。ははははは。笑いが止まらなくなる。もう可笑しくて可笑しくて仕方ない。

「ガリ子、笑いながら運転するのはやめろ! 頼む、やめてくれー」
 先生の怯えた声が車内に響く。
 滅茶苦茶気持ちいい! こんなに愉快な事はない。

「ガリ子。スピード落とせ。俺はまだ死にたくないーー!」

 先生の悲鳴を聞きながら200キロで高速を走り抜けた。後続車がぐんぐん見えなくなって、ぶっちぎりの先頭だ。なんて気持ちいいの。こんな世界があったなんて知らなかった。
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