先生と私の三ヶ月
幼稚園の正門を通ると、芝生が敷き詰められた広い園庭が見えた。お城のような遊具があって、その周りを十人ぐらいの子供たちが裸足で走り回っている。みんな小っちゃくて可愛い。わーわーいいながら走る姿に思わず頬が緩んじゃう。

流星(りゅうせい)!」

 園庭に向かって先生が大声で呼んだ。
 呼ばれた子供が立ち止まって、こっちを向くと、「かおる!」と走って来た。

 先生も腰を下ろし、両手を広げて男の子を出迎える。男の子は弾丸のように勢いよく先生の胸に飛び込んだ。

「かおるだ! かおるだ!」
 男の子が尻尾を振り続ける小犬のように先生を何度も呼ぶ。そして先生も「流星、流星」と嬉しそうに応えていた。

 まるで何年も会っていなかった父と子の感動的な再会のようなシーン。一体この子は何者? まさか元奥さんとの子供? でも、先生が結婚していたのは学生の時だって言っていたし。先生が抱きしめている子はどう見ても5、6歳ぐらい。元奥さんとの子どもにしては幼すぎる。

 それにしても先生、なんて穏やかな顔をしているんだろう。先生と出会ってから今が一番、いい顔をしている。流星君は先生を笑顔にさせる存在なんだ。

「迎えに来たぞ」
 先生が流星くんの頭を撫でながら言った。

「うん。今、あきな先生に言ってくる」
 流星くんが嬉しそうに建物の方に向かってまた駆けて行く。

 立ち上がった先生は、目を細めて大切そうに流星くんの背中を見ていた。やっぱり流星くんは先生の子ども?
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