先生と私の三ヶ月
「いやーどうも、どうも、お待たせしてすみません」

 男性の弾んだ声が響いた。灰色のスーツとメタルフレームの眼鏡が真面目そうな感じ。年齢は私より明らかに上だ。多分40代ぐらい。

 私はソファから立ち上がり、男性にお辞儀をした。男性は舐めるような視線でじーっとこっちを見てくる。初対面の人にいきなり無遠慮に見られ居心地が悪い。もしかして、私の顔に何かついてる?

「あの、私の顔、何かついてます?」

「あ、いえ。失礼しました。私、望月かおるの担当をしております。黒田です」

 差し出された名刺を受け取ると【小説海晴(かいせい) 副編集長 黒田浩輔】とあった。
 
 小説海晴は望月かおる先生の小説が以前、連載されていた。小説は終わってしまったけど、今は望月先生のエッセイが読めるから愛読している。

 黒田さんって、海晴を作っている人なんだ。うわぁ。こうして面と向かって会えるなんて嬉しい。頂いた名刺が宝物のように見えてくる。

「どうぞお座り下さい」

 立ったままの私に黒田さんがソファをすすめてくれる。私は一礼してから黒田さんの正面にさっきより浅く腰かけた。

「では、履歴書の方いいですか?」
「はい、よろしくお願いします」

 履歴書の入った白い封筒を黒田さんに渡した。

「拝見します」と丁寧な仕草で黒田さんは受け取り、真剣な目で履歴書を見ていく。
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