夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜

 痣に落とされた口づけは温かく、菜胡の心に刺さっていたトゲを溶かすかのように染み込んでいく。痣のおかげで自分と出会えたと言われた事が嬉しかった。
「なーこ」
「先生、ありがと……先生に出会えてよかった、好きになってよかった」
 痣は、自分を見つける印だと言われるとは思わなかった。どうして痣があるのかと何度も考えては、痣のない人生を思い描いていた。棚原を好きになってからは、痣が無ければここに居ないのではと思うようにもなったから、同じような事を言ってくれた棚原に出会えて良かった。

 こんなに好きになると思わなかった。初めてを捧げたいと思える人に出会えた喜び、そう思える人から愛されているという嬉しさと、これから愛しい人に身を任せる事の緊張感が菜胡を包む。
 
 慈しむように優しく唇が重なる。顔の角度を変えながら何度も重なっては離れて、また重なった。
「もう、心配事はないな?」
 覆いかぶさり、菜胡を見下ろす。
「あの、私は、どうしたら……」
 胸の前に置いた手を棚原が優しく退けて、囁いた。
「名前で」
「紫苑さん……」
「ん。あとは俺に任せて――」

 部屋を照らす街の灯りは、重なり合って蠢く恋人達の輪郭を、一晩中照らし続けた。 
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