夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜
「……いま何時」
夜明けを眺めてから再びベッドに沈み込んで、また眠ってしまい時刻は十時近くになっていた。室内もすっかり明るくなっていて、昨夜は見えなかった壁の色や観葉植物の葉の形、それから床に散らばる、二人分の衣類が目に入った。その時、携帯電話が着信を報せた。
「紫苑さん、携帯が鳴ってます、病院からでしょうか」
「……誰だろ」
ベッド脇のサイドボードに手を伸ばして携帯を手に取った。画面に出ているのは登録のない番号からで、寝ぼけたまま通話ボタンを押した。
「……はい、棚原です」
『兄さん? 昴だけど』
「お、昴か、どうした」
弟からだとわかると、勢いよく起き上がった。寝癖をなで付けながら楽しげに会話する。
『研修で東京に来てたんだけど、帰る前に会いたいと思って。今日は休み? これから行ってもいい?』
「そうか研修か――いっ今? 今はちょっとだめだ、まだ……十二時ごろなら、大丈夫、だな」
隣の菜胡と顔を合わせ、頷いた。
『あ、ふふーん? わかったよ、そしたらその頃行くね。じゃあまた』
通話が終わって大きく息を吐く。携帯をサイドボードに置いて菜胡を抱き寄せた。
「弟だった。いま東京に来ているんだそうだ、帰る前に来たいと言うから十二時頃来るように言ったがよかったか? 会ってもらえるか」
「もちろんです! それだったら一緒にお昼食べましょう? お作りします。弟さんは昴さんていうんですね」
「ああ。あいつは地元の救急病院で働いてるんだ。年は菜子より上だな、二十九歳だから。離婚した母親に着いて行ったんだが、交流はずっとあって、あいつも医療従事を職に選んだ。好き嫌いは無いから何でも食べてくれると思うが……負担かける」
ちゅっと口付ける。
「任せてください、冷蔵庫にあるものをお借りして何か作ります。作り置きのおかずもありますし何とかなります」
菜胡は起き上がった。
「あの……」
「ん?」
「その前に、お風呂をお借りしても」
「ああ、そうだな、一緒に入ろう」
「だ、だめです! 絶対、お風呂入るだけじゃ終わりませんよね?! お昼に間に合わなくなっちゃう!」
「当たり前だろ、目の前に愛する女が裸でいたら何もしないわけない」
とても甘い声で囁かれ、顔を赤らめる。くつくつと笑う棚原に、からかわれたと気がついた菜胡が腕を振り上げた。
「もーっ!」
振り上げた手はすぐに捕らえられて、棚原の腕の中におさまり、しばし見つめあってから唇が重なった。