夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜

 寮の前に停まる車の中。二つの影が重なった。何度か離れては重なって、ようやく降りてきた人を見て、浅川は仰天した。

 ――え、菜胡? あれ棚原先生の車じゃない。え、え、ふたりそういう関係?

 友人と外で遊んで来て帰って来た浅川は、寮の前に黒っぽい車が停まっている事に気がついた。棚原の車だとすぐにわかり駆け寄ろうとしたら、車内に居るらしい二人分のシルエットが一つになった。近づく足を止め、木の影に隠れる。
 ありがとうございました、と聞こえた声は菜胡で、その手には大きなカバンを持っていた。泊まり? どうりで一昨日から姿が見えないと思った、と納得し、敷地内を走り去る車を見送った。
 すぐにでも菜胡を追いかけ問い詰めようとしたが、わけの分からない敗北感が浅川をそこに留まらせた。足が動かなかった。

 菜胡は内気で、野暮ったくて、自分よりも劣っていたはずなのに、仕事も恋も手に入れていて、彼女よりも優位に居るんだと思っていた自分がとにかく恥ずかしく、また悔しくて、気持ちの整理がなかなかつかなかった。
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