夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜
会える時間が作れない平日は、二人きりになれる機会がないまま過ぎ、ようやくの土曜になった。
何もなければ夕方に待ち合わせて棚原と共に帰るのだが、今週は木曜の時点で、容態の不安定な患者が居ると聞いていたから会う約束も期待もせず、菜胡はやるべき事を淡々とやっていた。
外来の電話が鳴る。
『棚原です、今日はまだ帰れないんだ、患者さんが落ち着いたから帰ってもいいんだが、当直の先生に申し送りしたいから』
「ん、わかりました。こちらは大丈夫、がんばってね」
病棟患者が急変してしまったのならそちらに注力すべきで、わがままは言えない。だが――。
『菜胡に会いたい、こんなに近くに居るのに……菜胡が足りない』
「私も同じです。紫苑さんが恋しい。でも、月曜にまた会えますから」
受話器が、まるで愛おしい人であるかのように両手で包む。そこから聞こえてくる声を、一言も外へ漏らさないかのように耳へ押し当てる。
『菜胡も気をつけて帰ってね、終わったら連絡する』
菜胡は寮にいる。病院の敷地内にある寮に。だから仕事が終わった棚原と会おうと思えば会えるのだ。だが寮に来てもらうと浅川と鉢合わせになる恐れがあるため、絶対に来ないで欲しいとお願いをしてあった。
鉢合わせをして、もし関係が公になって、それが棚原の迷惑になってしまったら怖いし、浅川に邪魔されるのが嫌だ。それに、棚原と居れば甘い空気になる事はわかっている。そうなったら、あの薄い扉だ、嫌悪している浅川と同じ事をしてしまうのが嫌だった。だからこそ、菜胡は寮を出る事を考え始めたのだ。