夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜
夕食のため息子と食卓を囲んでいる大原の携帯が鳴った。
『大原さん? こずえだけど今いい?』
外科外来のこずえからだった。
「あら、おつかれさま、今帰り? 遅いわね、何かあった?」
『えと……菜胡が、内科の先生に、その……襲われて』
「え? どういうこと?」
座っていた椅子が倒れそうなほどに勢いよく立ち上がった。目の前の息子も驚いて食事の手を休める。構わず食べて、と短く言ってから、リビングに移動した。
『当直でたまに来ていた若い先生いるじゃない? 内科の。その先生が菜胡を追いかけ回して。逃げる菜胡が転んだんだけど、それでも無理やりどこかに連れて行こうとしたらしいの。けどちょうど棚原先生がすぐ近くにいて助けてくれたから無事なんだけどね』
室内をうろうろしながら話を聞き続ける。
――どうして菜胡が? どうして!
『転んだ時に膝を擦りむいただけ。それは棚原先生が消毒してくれて、それ以外は大丈夫よ。その、陵辱されたりはしてない』
「そう……ならよかった。警察は? 呼んだの?」
『ううん。棚原先生が週明けて院長等に相談の上で必要なら通報するから今は呼ばないでって。私たち外科もちょうど上がったところで現場に出会してさ。救い出した棚原先生に頼まれて、少しの間菜胡と居たのよ。かわいそうに、転んだせいであちこち土だらけで』
様子を想像すると涙ぐんでしまう。
「それで菜胡は今どうしてるの、あの子寮住まいなんだけど……!」
そんな事があった後で、寮に一人でいるのだろうか。うちに連れてきたらいいかしら、今から迎えに行く?
『あー、それは……その』
「彼が迎えに来た?」
『あ、なんだ知ってたんだ。棚原先生が連れて帰ったよ。恋人なんだってね、知らなかったのよ。なんかこう、溺愛って感じだったわ。お姫様抱っこして、菜胡も抱きついちゃって』
え? と声が出た。
「棚原先生? だって指輪してたわよね?!」
『その指輪は菜胡との婚約の証だって言ってた。それからチラッと聞こえたけど――浅川が、関わってるみたい』
「浅川? どうして! だって菜胡は浅川の後輩じゃないの」
声を一際荒げて聞き返した。
浅川は、大原が整形外科に来た二年目から関わった子だ。飲み込みが早くて何でも器用にできる。それだから少し傲慢なところがあるものの患者に対しては丁寧だし、仕事も誠実に熟す子だった。外来に来て二年で病棟へ異動となってからは、入院手続きの時に話す程度になっていたが、菜胡同様、いつも気にかけている子でもあった。その浅川が関わっていると聞いて、動悸が速くなる。
『理由はわからない。菜胡は誰かに恨みを買うような事をする子じゃないもの』
「そうよね……こずえちゃんは? もう帰りなんでしょ?」
『うん、今帰り道よ。何か手伝えることがあったら言って、私たちも、菜胡がかわいいの』
「うん、ありがとう。その時は声かけるわ。また月曜日に。じゃあね」
電話を切った大原は情報の整理をはじめた。
菜胡が内科医に襲われた。助けに入った棚原により事なきを得た。落ち着いてから棚原と共に帰っていったというし、内科医を唆したのが浅川だという。
――浅川……!
『大原さん? こずえだけど今いい?』
外科外来のこずえからだった。
「あら、おつかれさま、今帰り? 遅いわね、何かあった?」
『えと……菜胡が、内科の先生に、その……襲われて』
「え? どういうこと?」
座っていた椅子が倒れそうなほどに勢いよく立ち上がった。目の前の息子も驚いて食事の手を休める。構わず食べて、と短く言ってから、リビングに移動した。
『当直でたまに来ていた若い先生いるじゃない? 内科の。その先生が菜胡を追いかけ回して。逃げる菜胡が転んだんだけど、それでも無理やりどこかに連れて行こうとしたらしいの。けどちょうど棚原先生がすぐ近くにいて助けてくれたから無事なんだけどね』
室内をうろうろしながら話を聞き続ける。
――どうして菜胡が? どうして!
『転んだ時に膝を擦りむいただけ。それは棚原先生が消毒してくれて、それ以外は大丈夫よ。その、陵辱されたりはしてない』
「そう……ならよかった。警察は? 呼んだの?」
『ううん。棚原先生が週明けて院長等に相談の上で必要なら通報するから今は呼ばないでって。私たち外科もちょうど上がったところで現場に出会してさ。救い出した棚原先生に頼まれて、少しの間菜胡と居たのよ。かわいそうに、転んだせいであちこち土だらけで』
様子を想像すると涙ぐんでしまう。
「それで菜胡は今どうしてるの、あの子寮住まいなんだけど……!」
そんな事があった後で、寮に一人でいるのだろうか。うちに連れてきたらいいかしら、今から迎えに行く?
『あー、それは……その』
「彼が迎えに来た?」
『あ、なんだ知ってたんだ。棚原先生が連れて帰ったよ。恋人なんだってね、知らなかったのよ。なんかこう、溺愛って感じだったわ。お姫様抱っこして、菜胡も抱きついちゃって』
え? と声が出た。
「棚原先生? だって指輪してたわよね?!」
『その指輪は菜胡との婚約の証だって言ってた。それからチラッと聞こえたけど――浅川が、関わってるみたい』
「浅川? どうして! だって菜胡は浅川の後輩じゃないの」
声を一際荒げて聞き返した。
浅川は、大原が整形外科に来た二年目から関わった子だ。飲み込みが早くて何でも器用にできる。それだから少し傲慢なところがあるものの患者に対しては丁寧だし、仕事も誠実に熟す子だった。外来に来て二年で病棟へ異動となってからは、入院手続きの時に話す程度になっていたが、菜胡同様、いつも気にかけている子でもあった。その浅川が関わっていると聞いて、動悸が速くなる。
『理由はわからない。菜胡は誰かに恨みを買うような事をする子じゃないもの』
「そうよね……こずえちゃんは? もう帰りなんでしょ?」
『うん、今帰り道よ。何か手伝えることがあったら言って、私たちも、菜胡がかわいいの』
「うん、ありがとう。その時は声かけるわ。また月曜日に。じゃあね」
電話を切った大原は情報の整理をはじめた。
菜胡が内科医に襲われた。助けに入った棚原により事なきを得た。落ち着いてから棚原と共に帰っていったというし、内科医を唆したのが浅川だという。
――浅川……!