夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜
日曜、浅川の部屋を訪れた際、帰り際に言ってきた。
「大原さん、あたし辞めます……菜胡に合わせる顔がないし、皆さんにご迷惑もお掛けして、もうここで働けません。明日の院長の沙汰を待たなくてもいいですよね」
「辞表、書くの?」
頷いて、その場で辞表を書いた。部屋の中を見回して、必要最低限なものだけをキャリーバッグに詰め込んでから実家へ電話をかける。
「お母さん? 恭子。これから帰る。ううん、病院辞めるの。うん、詳しい事は帰ったら直接話すから。はい、また連絡するね」
「いいの?」
大原に付き添ってもらって病棟へ顔を出した。看護部長と、騒ぎの報告を受けた病棟の師長に向き合って辞表を差し出し頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。突然のわがままをお赦しください。故郷に戻って、一からやり直します」
師長は大原を見る。眉を下げ、小さく首を横に振った大原を見て引き止めは無理だと悟った。
「あんたがした事は赦されない事。それを忘れてはだめ。けど、あんたの仕事に対する姿勢は私たちもドクターたちも評価していたの。そこも忘れないでいて。ここでの経験はあんたの宝。顔をあげて、地に足を付けて、しっかりやりなさい」
師長に頭を下げたまま言葉を聞く。背を屈める浅川の肩を抱いて来たのはいつも連んでいたナースだった。涙目の彼女は浅川の頬を軽くペチペチと叩いた。
「浅川、愚痴溜まったらメールちょうだい。ちゃんと吐かなきゃだめ――気づいてあげられなくてごめん……」
ひと通り挨拶をした浅川は、病棟の非常階段から外に出た。キャリーバッグの取っ手を握る。
「大原さん、ありがとうございました。お世話になりました。こんな形で――」
浅川をふわりと抱きしめる。
「時々連絡くれなきゃだめよ、待ってる。菜胡への手紙は時期を見てきっと渡す。部屋の事と事務手続きは明日以降、事務から連絡が行くと思うから、困ったらあたしに相談して。動ける範囲で手助けするから」
「ありがとうございます。お願いします……」