夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜

4


 火曜は大事をとって棚原が仕事を休ませて、水曜にようやく出勤できた。

 棚原としては、このまま退職させたい気持ちだった。あんな事が起きる前に、自分以外の男と話させたくないし、菜胡に男が近づくのも嫌だ。だが菜胡は働きたがった。患者さんとのやり取りが好きで、外来の仕事が好きで誇りを持っていた。

 それでも寮へ帰るのだけは怖がった。ちょうど病院は寮の閉鎖を決めたため、早急に部屋を探さなければならず、見つかるまでは自分の部屋に来るよう勧めた。これには菜胡も頷いて、さっそく荷物の運び出しなどを仕事の合間に行った。

 昼の休憩を利用して、持ち出す荷物を棚原の車に積み込んだ。着替えや小物類だけで、ベッドは寮に造り付けだったのと、タンスは元から置いてあったものだから、菜胡が入寮に際して持ち込んだ家具は無かった。だから昼休憩を使っての片付けは一週間もあれば終わった。

 棚原には当直がある。不定期で、平日に順番が回ってくる時もあったが、菜胡を一時的に引き取っている間は、当直は土曜のみにしてくれた。
 菜胡としては棚原が当直の時は鉄道を使って行き来するから、と主張したものの、自分が何がなんでも送迎すると言って聞かなかったため、樫井が調整してくれた。土曜、菜胡を家まで届けてまた病院へ戻ってくる。片道20分程度の行き来だが、日曜の昼間に帰宅すれば問題無いだろうとの配慮だった。

 こうして棚原の仕事が終わるのを食堂で待ってから共に帰る暮らしになって数日。

「前も言ったが、ここに一緒に住まないか? 部屋も空いてるから菜胡の部屋にしたらいい」
「そう言って下さるのは嬉しいですけど……あの、新しい部屋の候補のリストを持ってきたんです」
「ん、見せて」
 こくりと頷く。

「私はどこか抜けてるから、紫苑さんが見て、安心できる所がいいかなって」
 かばんから紙を取り出して、棚原に渡した。

 菜胡のリストアップした物件は、いずれもオートロックの物件だった。鍵付きポスト・宅配ボックスがあり、風呂トイレは別、キッチンは二口コンロを置ける広さがある。寝室の広さはまちまちだったが、その中でも一番広めの物件に注目した。

「ここなんか良さげ。書店の近くかな? セミダブルが置けるかは行ってみないとわからないけど。あと周辺の治安がどうかも見たいなあ」
「セミダブルってベッドですよね、シングルで良くないですか?」
「二人で使うには狭いじゃん」
 シレッと答えた。あまりにも自然に、ごく当たり前な顔で言うもんだから、逆に菜胡の方が照れた。

「それに寝返りを打って菜胡が落ちたら困る」
 寝相の悪さは自覚していなかった。だが思えば、目を覚ますといつも棚原の腕の中にいた。壁側にいて守られていた。

「本当は一緒に住みたい。でも俺が当直の時の行動が狭まるという菜胡の懸念は尤もだから、俺も菜胡の部屋に住む」
「え、ちょ?」
「住むって言ったら語弊があるか。平日は菜胡の部屋に帰る。金曜からは俺の部屋に帰ろう? だめ?」
 ふわっと抱きしめられる。

「だっだめじゃ、ないですけど――いいんですか?」
「金曜は俺が休みだから、掃除とか買い出しとか、あと手紙なんかも来てるかもしれないし帰る。それで夕方迎えにくる。もう菜胡との事は院内で知らない人は居ないし、誰にも気兼ねする事なく、菜胡を抱きしめちゃう!」
 嬉しそうにぎゅうぎゅう抱きしめてくる。その流れで、次の休みに内覧に行く事を決めた。
< 76 / 89 >

この作品をシェア

pagetop