夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜
二週間ほどした日曜、菜胡は棚原と共に寮を訪れた。部屋が決まり、最終的に必要なものの運び出しを行うためだ。クローゼットや棚は造り付けなため大きな家具を買う必要もない。家電だけはもともと中古を使っていたから買い換えなければならず、それらの手配を済ませての、小物の運び出しだった。
三階に着くと、菜胡は棚原の腕を掴む手に力が入った。
「す、すみません、もう居ないって分かってるのに」
棚原は眉を顰めた。菜胡の心をここまで傷つけた奴らを到底赦す事はできない。だがもう彼らは社会的制裁を受けた。だからもう二度と会う事はない。部屋の扉の前で、菜胡を抱きしめた。背をなで、身体の緊張を解してやってから口付けた。
「菜胡、愛してる」
――負の記憶は、俺が上書きしてやる。ここで愛し合った思い出で菜胡を染め替える。
「紫苑さ、んっ、こんな……誰かに、聞かれ……んっ」
誰も居ない寮の、そのまた誰も来ない廊下の突き当たり。そこは二人きりの空間で、棚原の熱が菜胡の口内を蹂躙した。唇の端から漏れ出る熱っぽい吐息は部屋でのそれよりも背徳感に塗れていて、気分は昂まり互いを貪り続けた。
明るいうちに新居へ戻るはずが、キスだけでは我慢できなくなり、引越すつもりで荷物の散らばる室内で性急に求め合った。気がつくと空は茜色に染まり始めていて、急いで小物をまとめる。
「もう、紫苑さんのばか! 予定では新居の片付けをしてご飯食べ行こうって」
非難してくるが、それはささやかな抵抗に見えて、ただただ菜胡が可愛い。怒っているはずなのにちっとも怖くない。
「……菜胡が可愛いんだもん。でも良かったでしょ、俺は良かった……」
「ばっばか!……良かった、けど……知らないっ」
顔を赤くして、ポカポカと棚原を叩く。