夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜
新居は、待ち合わせに使っている書店の近くに決めた。歩いて数分のところの単身者向けのマンションで、四階建の三階、東に向いてる部屋を選んだ。今度はエレベーターもある。
はじめに目をつけて内覧したのは、同じ建物の別の部屋だった。南西に窓のある明るい部屋で最上階だった。間取りは広めで1LDKで、見晴らしも良い。他の部屋よりも広いベランダもあってそこに決めても良かったが、最上階はとにかく暑いからダメだと棚原が譲らなかった。加えて、西に窓があるのもその暑さを助長するだけだからと、不動産屋に掛け合った。
不動産屋としては、家賃の高い最上階をしきりに勧めてきたが、棚原のしつこさに、それなら、と見せてくれた東向きの部屋が気に入った。
三階は2LDKで、ベッドを置く部屋もある。窓は東と北にあり涼しげな風が入ってくる。日当たりはあまり望めないが、暑いよりは良いと菜胡も納得した。オートロックで、カメラ付きのインターホンが付いている。コンシェルジュは居ないが大家がすぐ近くに住んでいる。ゴミ出しは二十四時間可能で、バス、トイレ、キッチンはリフォーム済みのとても清潔な状態に、二人とも納得の決定だった。
その場で庶務課に連絡を取り、棚原を保証人にして賃貸契約を済ませた。電気ガス水道各社に開通の連絡をする。部屋中を掃除して、あらゆる場所のサイズを測り家具家電を買いに出た。セミダブルベッドを一台、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、置くだけのWi-Fiルーターを購入したが、配達と設置は週明けになると言われた。
「なら、金曜にしてもらおうか、俺が立ち会って受け取るよ?」
翌週から新居での生活が始まった。自宅マンションに比べたら狭いのに、一緒に居たい棚原は入り浸った。当直の後や土日は自宅へ帰るが、それ以外は菜胡の部屋に寝泊まりをしていた。
同棲する話は何度か出たものの、やはり棚原が当直の時は行動が制限されてしまう。通勤が棚原ありきなのは無理が出る。甘えているようで自身も嫌だったから、棚原のマンションへ共に帰るのは週末の金曜からにした。土曜は揃って出勤し、揃って帰る。月曜の朝、少し早めに菜胡の家に来てそこから歩いて出勤した。そんなリズムが定着した。
この頃になると院内でも二人の仲を知らない者はいなくなり、だが特に冷やかされることもなく見守ってくれていた。