夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜

 車を走らせてすぐ、フロントガラスに雨粒が落ちてきた。

「あら、雨ですね」
「一日曇ってたからなあ。今夜だけで明日は晴れる予報だから、湘南まで足を伸ばせるな」
 首都高速道路は車の台数は多かったがおおむね順調にホテルに到着した。予約していた名を告げてチェックインを済ませ、部屋で着替えた。棚原はジャケットにネクタイ、菜胡はワンピースにパンプスとアクセサリーを少し。

「紫苑さん、かっこいい。いつも白衣だから、そういう姿、新鮮。かっこいい」
 焦茶色のジャケットに白いシャツを着て、シャツの襟は立てた。ベージュ色のパンツに焦茶のベルトと靴を合わせ、胸ポケットには菜胡のワンピースと同色のポケットチーフを挿した。

「菜胡も似合ってるよ、そのワンピース」
 薄いクリーム色のワンピースには、同色の糸の、大きな花の刺繍が裾に一周ぐるりと施されていて、一見地味だが、華やかできちんと感もある。右手には棚原の指輪をはめ、ハーフアップにした髪をまとめて、茶色のパンプスを履いた。ペアルックというほどではないが、カラーは揃えたつもりだった。
 
 レストランはホテルの上層階にある。席は全て窓の外を向いており、夜景を眺めながら食事を楽しめた。この展望ならカップルでの利用が多いわけがわかる。
 レストランと同じ階にある、こちらも夜景が美しく見えるバーに移動して、ピアノの生演奏のジャズと美味しいお酒を愉しんだ。部屋へ戻ってきた棚原はネクタイを外してベッドになだれ込んだ。

「あー、美味しかった」
「お仕事終わりで疲れたでしょ? お疲れさま、ありがとう」
 アクセサリーを外してパンプスを脱ぎ、結っていた髪を解いた菜胡が棚原の目の前に立った。背を屈めて棚原に覆いかぶさるように口付ける。クリーム色のワンピースから覗く鎖骨が妙に扇情的で、そのまま菜胡の腰に腕を回して抱き寄せ、あっという間に形成は逆転した。

「菜胡だって、今日一日仕事してた。お疲れさま、ありがとう」
 ちゅっと軽く口付ける。何度も顔の角度を変えながら唇が重なって、やがて棚原の舌が菜胡のそれを求めて割り入ってくる。

「ん……し、おんさ……」
「菜胡……」
 視線は熱く絡みあったまま、唇がわずかに離れた隙に互いの名を囁き合うも、すぐに吐息へと代わる。

 ベッドの枕元に備え付けのスイッチを操作して室内を暗くした棚原は、菜胡に口づけを落としながらその背に手を回してファスナーを下げた。お酒を飲んだせいか、はたまた棚原に移されたのか、身体は火照っていて、背中が涼しく感じた。するりと脱がされていく菜胡も、棚原のシャツの前ボタンに手をかけた。
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