夜明けを何度でもきみと 〜整形外科医の甘やかな情愛〜
翌週、菜胡の実家へ出向いた。ガチガチに緊張していたのは菜胡の両親の方で、長女の時に一度経験しているにも関わらず、棚原の上背の高さ、医師という職業が両親を硬くさせた。
「地味な菜胡を見初めて下さってありがとうございます」
「あの、この子の痣の事はご存じで……」
「聞きましたし、見せてもらいました」
――見せてもらったって、それは!! 紫苑さん!!!
菜胡はお茶を噴くかと思った。その様子に気がつかない父親は話を続けた。
「大学病院の皮膚科に通ったんです。何とか消えないものかと調べていただいたんですが症例がないと言われまして、それでも一縷の望みをかけて、液体窒素で皮膚を焼いて、火傷と同じ状態にさせる方法を試しました。腕の方はそれで薄くなった。だがそう広範囲には無理だと言われ、きれいに消すならレーザー治療もあると教えてもらいました。腕はおろか、胸の方は何しろ範囲が広すぎる。菜胡の身体の負担はもちろん、お恥ずかしい話ですがお財布の負担も大きかった。幸い、夫となる者以外には見えない箇所だからこれでいいとこの子が決めまして」
「そうでしたか。痣は別に気になりません。僕はそれすら愛おしいので……」
言いながら、隣に座る菜胡の手を握り見つめ合う。
「な、なら、私たちも嬉しく思います。棚原くん、娘をよろしくお願いします」
お互いを自身の家族に紹介し終え、六月の末に結納を行った。それから約半年後の十一月吉日、棚原と菜胡は式を挙げた。最悪の出会いからおよそ二年八ヶ月が経っていた。
菜胡は結納が整ったあとで退職した。借りていた部屋は引き払って棚原のマンションへ引越し、事実上の同棲が始まった。
式の準備の中で、二人は小さな言い争いが何度かあった。仕事場が同じだった頃はそれでも顔を合わせなければならず職場では普通に接するが、一旦二人きりになると途端に険悪なムードになってしまう。だが退職した今は、朝、棚原を見送ると帰ってくるまで一人だ。その時間は頭を冷やすには充分で、帰宅した棚原と互いの話を聞き合うことができた。話が平行線のまま朝を迎えた時、菜胡は、まだ眠る棚原に抱きついた。
「ん……どした」
「夕べはぎゅってできなかったから……」
胸に顔を埋める。
「俺も……菜胡が足りなかった」
抱きしめ返されて、一日が始まる。
何度も衝突しながら二人は吉日を迎えた。とても晴れ渡った日、棚原のもとへ菜胡は嫁いだ。