例えば今日、世界から春が消えても。
さくらの微妙な変化に気付いた僕は、慌てて話題を変えようと試みたものの。


「因みにさ、ハワイにはいつから行ってたの?8月の下旬とか?」


好奇心旺盛なエマの早口な質問に、まんまと遮られた。


「んーと、そう。そのくらいかな」


僕の隣で頷くさくらを見たエマと大和は、

「そっかー。やっぱり羨ましいよねハワイなんて」

「ほんとそれな」

と、顔を見合わせて笑っている。


ただ、その目は、お互いに無言で何かを伝え合っているようにも見えて。


「2人共、」


その光景により一層の既視感を覚えた僕は、慌てて会話を止めようとしたのに。




「…サクちゃん。私達に、何か隠してる事とかって、ない?」


再び、柔らかな口調で核心をついたエマの言葉に、先を越された。



「えっ…?」


彼女の声に動揺の色を見せたのは果たしてさくらか、それとも僕か。


どちらにせよ、さくらの動きが石像の如く固まったのが視界の端に捉えられた。




僕は、今の彼女が心の中でどれ程葛藤しているかが手に取るように分かる。


『フユちゃん、私達に何か隠してる事ない?無いなら大丈夫だし、もしあるなら…力になれる事はないかなと思って』

『…何だか知らねぇけど、長袖脱がずに熱中症にでもなってお前が試合に出れなかったら、俺が困るんだからな』
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