例えば今日、世界から春が消えても。
何故なら僕は1年前の夏、此処で2人に同じ質問をされた事があるから。



蝉の声がやかましいある日、練習試合で汗だくになっても頑として長袖のパーカーを脱がず、捲る事すらしなかった僕を心配して、2人が僕をこのカフェに連れ込んだんだ。


最初こそ彼らの類稀なる演技に騙されていた僕は、至って普通に食事を楽しんでいた。


大和が徐々に話題をサッカーだけに限定し始め、エマが一気に本題に切り込むまでは。


あの時、僕は今のさくらと同じような表情をしていたと思う。



『…だから、放っておけって言ってんだろ!』


そして、僕は家族が死んでから初めて、声を荒げて感情を剥き出しにしたんだ。


高校になってまだ日も浅く、家では息も詰まる程に窮屈な日々を送り、学校では勉強に加えて懸命にボールを追いかける。


文武両道を目標に掲げた僕の中には、勉学と部活のどちらかを妥協するなんていう考えは存在していなかった。


4月の段階で勉強を諦めてサッカーに自分の全てを注ぎ込み、1年生の中で唯一のレギュラー入りを果たしていた大和と、勉学、サッカー部のマネージャー、そしてモデルという3足のわらじを履いた怖いもの知らずのエマ。


そんな素晴らしい仲間に囲まれていたからこそ、自分の弱い部分を何とかして隠していたくて。
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