例えば今日、世界から春が消えても。
「私達、ハワイについて調べてみたんだけどね」
ふっと顔を上げると、エマが神妙な顔つきで自分のスマホの画面をさくらに見せていた。
「8月の中旬、ハワイで大規模な噴火があったらしくて。その影響で、8月末から9月末までのフライトは全部キャンセルされてるの」
「…?」
エマの会話の内容に頭が追いついていない僕は眉間に皺を寄せる。
「お前がハワイに行ったのは8月末。帰ってきたのは9月の中旬」
サッカーボールの上に顎を乗せながら淡々と言葉を紡いでいく大和の目は、最早何処も映していなかった。
「え、」
彼が言わんとしている事、さくらがついた小さな嘘にようやく気がついた僕は、たった一言を漏らして右隣を向く。
「…飯野。お前、ハワイなんて行ってないだろ」
僕の隣で俯いているさくらの表情は、艶々しい黒髪ボブに遮られて分からな…あれ?
そこで、僕は彼女の身に起こっている重大な変化に気がついて固まった。
つい先日まで、隣で授業を受けている彼女の表情は髪の毛のせいで把握出来なかったのに。
何で。
「別にこんなの大事でもないし、こうまでして聞く必要はないと思ってたんだけど」
大和の声が、僕の耳を見事にすり抜けていく。
「この頃様子もおかしかったし元気もなさそうだったし、何かあったのかと思って…」