例えば今日、世界から春が消えても。
謝罪の言葉が絨毯の如く心の中に広がり、僕の全てを飲み込んでいく。


そんな中、さくらが乾いた唇を舐めた。



「7歳の頃の私の夢…願いは、17歳まで生きる事だった」



そこから、全ては始まったの。


無理やり笑顔を作ろうとするさくらの口角はみるみるうちに下がり、

水晶玉のような目から、1粒の雨がテーブルに落ちた。



さくらの説明は、以前僕が聞いたものと何ら変わりがなかった。


5歳の頃に白血病になり、7歳の誕生日の前日に余命宣告を受けた事。

誕生日に“あと10年でいいから生きたい”と願ったところ、病状がみるみるうちに回復し、
日本中から桜の蕾が落下して春が消えた事。

春を覚えているのは自分しかおらず、そのうち、自分は来たるべき春を盗んで生きていると感じるようになった事。

さくらが17歳の誕生日を迎えるまでの日数に春の日数を当てはめて計算したところ、春が日本に戻ってくるのは自分が死んだ30年後だと突き止めた事。



僕に話していた時は終始泣いていたのに、今回の彼女は比較的笑顔を見せていた。


もしかしたら、友達の前でこれ以上泣き顔を晒したくないという想いがあったのかもしれない。


「8月の後半に体調を崩したから、軽い気持ちで病院に行ってみたの。…行ってみたのっていうか、救急車で運ばれたんだけどね」
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