例えば今日、世界から春が消えても。
既にエマが涙を拭い、大和が瞬きも忘れる程に集中して話を聞いている最中、さくらだけが平然と飲み物を口にする。


「そしたら即日入院って事になっちゃって、携帯も着替えも何も無いままベッド生活。ママにスマホ持ってきてって頼むの忘れてたから、皆と連絡取れなかったの。ごめんね」


ふふっ、と静かに笑うさくらの目は星のように光り輝いていた。


「サクちゃ…っ、ううん、謝ることなんかじゃない…」


黙って話の全てを聞いていたエマは、紙ナプキンで涙を拭きながらぶんぶんと首を横に振った。


「…それで、白血病の再発が分かったの?」


涙を堪えながら質問をすると、彼女は泣き笑いを浮かべながらこちらを向き、ゆっくりと頷いた。


「うん。本当は、入院してた方が身体の為にも良いって言われてたんだけど…どちらにせよ私が死ぬ日に変わりはないんだから、それなら通院で出来るところまで頑張ろうかと思って」


最悪の場合は入院する事になると思うけど、今年中は耐えてみせるから、と、彼女は涙を飲み込んでガッツポーズを作ってみせる。


この頃遅刻が多かったのは体調が優れなかったからで、授業中に寝ていたのは薬の副作用のせいだったらしい。


「これからは薬のせいで髪の毛も抜けてくるだろうし、吐くかもしれないし歩けなくなるかもしれない。…でも、大丈夫。こうなる事は想定内だし、私は最後まで頑張れるから」
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