例えば今日、世界から春が消えても。
涙に混じった声から伝わる、揺るぎない決意。

ああ、君はどこまで強い女性なんだ。


「いや、でも今年中は耐えるって、あと3ヶ月しかないじゃねーか…」


今まで黙ってさくらの話を聞いていた大和が下唇を噛み締め、手で顔を覆った。


「あ、一番泣かなそうな大和君が泣いちゃった」


さくらの作ったような明るい声にも応える事が出来ずに鼻を啜った大和を見て、打って変わって静かになった彼女は眉を下げ、ごめんね、と呟いた。


「でも、その、…誕生日に死んじゃうっていうのは本当なの?サクちゃんが春を消したとか…なんか、おとぎ話の世界みたいで」


続いて、涙を拭いているせいで何枚もの紙ナプキンを卓上に置いたエマが、言いずらそうに口を開いた。


彼女がそう思うのも無理はない、だって僕も初めは信じていなかったのだから。



「本当だよ。私が、春を盗んだ」


でも、さくらの言葉は終始一貫していた。


「そりゃあ、私だって最初はそんな事思ってもなかったんだけどね?」


彼女は真剣な顔つきで、こんなお洒落なカフェには到底似合わない話を続けていく。


「でも今、実際に春がどんなだったか覚えてる人はいないでしょう?専門家だって、自分の記憶じゃなくてデータに基づいた事を話してるだけ。けど、私は全部覚えてるの」
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