例えば今日、世界から春が消えても。
サッカーボールに押し付けて隠していた泣き顔を晒して、


「春は要らない。三季でも生きていけるから、お前は絶対に死ぬな」


と、涙が作った新たな線を頬に描きながら。


「っ……、」


それは、さくらが誰よりも望んでいるはずの願い。


17歳までではなく、もっとずっと、百歳になるまで生きていたいはずなのに。


大和の感情が嫌という程に伝わって我慢出来ずに涙を拭った僕と、既に嗚咽を漏らしながら号泣するエマ。


その狭間にいる彼女はふーっと息を吐き、ありがとう、と涙声をあげた。


「私、こんなに素敵な友達に恵まれて、…本当に、幸せ」


泣く事を必死に我慢している彼女が見せるのは、罪悪感と幸福感の混じり合った笑顔。


「でも、…春を待ってる人がいるから。私は、私のせいで変わった秩序を元に戻さないといけないの」


「っ、」


ひゅっと息を飲んだ。

彼女の言う“春を待つ人”が、誰を指すかが分かってしまったから。


「それに、皆に桜の美しさを知って欲しいし。私だけが知ってても駄目なんだよ」


「やだっ……!」


さくらの悟ったような言葉を聞いたエマが、遂に隣に座る大和の肩に顔を埋めた。


「え、何で俺!?」


こんな事になるとは想像していなかったのだろう、大和は一瞬にして涙を引っ込ませ、ぽかんと口を開けている。
< 124 / 231 >

この作品をシェア

pagetop