例えば今日、世界から春が消えても。
「ふふっ…2人には、泣き顔なんて似合わないよ」


そんな彼らを見て笑みを零したさくらは、僕の方へ振り向いた。


「冬真君も。ほら、笑って?」


彼女の棒のように細い指が僕の口元に触れ、強制的に口角を上げられる。


それは、夏休みに偽のカップルとして散々デートを重ねて来た時と同じ笑顔で、同じ口調で。


誰よりも泣き叫びたいはずの君が、誰よりも他人を想っているなんて。


「っ、…さくらも」


僕は、彼女の頬に親指を滑らせて不器用な笑顔を作った。



誰の頭からも、食べかけのケーキの存在なんて消え失せていた。






「あのさ、私達に何か出来る事はある?」


そこから暫く泣き続けていたエマが口を開いたのは、残っていたアイスティーを一気飲みしたさくらが追加の飲み物を頼んだ直後だった。


「もし、ほら…いや、信じたくないけど、さくらがそうなるなら、…その前に何かしておきたい事とかやってみたい事とか、ないかなって」


言いながらまた目頭が熱くなってきたのか、エマは途中から上を向いて手で目を扇ぎ始めた。


「あー。…実は、あるんだよねぇ」


全てを話しきった事ですっきりしたのか、意外にも晴れやかな顔のさくらが僕と一瞬だけ目を合わせて微笑む。


「あのね、実は私、“死ぬまでにやりたいことリスト”っていうのを作ってるんだけど」
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