例えば今日、世界から春が消えても。
そういえばあの日、韓国料理の美味しさに涙を流したさくらは、エマのある言葉で顔を覆って泣き出し始めたんだ。


確かそれは、エマが一緒にアメリカに行こうと誘った時と、5月は夏なのに汗が吹き出る様なお店に入ってしまったね、と笑いを取ろうとして口にした時。


あの時には、既にさくらは自分が死ぬ日を知っていたから、自分が成人する事がないと分かっていた。

それに、9年前までの5月はまだ春の域に入るのに、それを忘れているエマの言葉に改めて衝撃を覚えてしまったのだろう。


「やだ、恥ずかしいから思い出させないでよー!はい次!…エマちゃん、沢山泣かせちゃってごめんね」


けれど、当の本人はケロリとした顔で笑い飛ばし、最後には泣きじゃくるエマを気遣う余裕まで見せていた。


続いて、さくらに誘導された大和が、これまた1学期中に叶った2つ目のやりたいことを読み上げる。


『2: 嘘でもいいから彼氏を作る。デートをする

冬真君が偽物の彼氏になってくれた。初デートは遊園地!空中ブランコで冬真君の靴が飛んでいったのは、最高の思い出!』


「…は?」


淡々と読み上げていた大和が、冬真君が、の所でぴたりと動きを止めた。


「あ、これは秘密にしてたんだった。ごめんごめん」


さくらの笑いを含んだ謝罪の言葉なんて、最早彼の耳には届いていないようで。
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