例えば今日、世界から春が消えても。
「ごめん、俺目が悪くなったかも。え?」


泣いて赤くなった目を擦った彼は、さくらの手帳をひったくって真剣に文字を追いかけ始めた。


「ちょっと独り占めしないで、私も見る!えー、冬真君が偽物の彼氏、……ん?」


そんな大和の頭に腕を置いたエマが、膝立ちになって手帳に書かれた文を朗読し、ぽかんと口を開けた。


そして、そこからきっかり3秒後。


「…ちょっと待って、サクちゃん?私、貴方に言わなきゃいけない事がある」


「和田、ちょっとツラ貸せ」


何かを言われる事を覚悟して姿勢を正した僕達の方へ、目を爛々と光らせた2人が顔を向けた。


「偽物の彼氏って、何その恋愛漫画みたいな展開!最高なんだけど、どうしてそれを早く言ってくれなかったの!?もっとフユちゃんと遊んで楽しい思い出作りなさい!」


「お前、この頃急に明るくなって口数多くなったと思ったら抜け駆けかよ!幾ら偽物だろうと、彼女作った事に変わりはないじゃねーか!何で報告しないんだよ!?」


ギュッと目を瞑った僕達に浴びせられたのは、言葉はきついものの、彼らが成しうる最大級の褒め言葉だった。


「あ、…」


恐る恐る目を開けた僕は、目の前に座る友が笑顔を浮かべている事に安堵してほっと肩の力を抜く。


「お前、偽物だからって気抜くなよ。いいな」
< 128 / 231 >

この作品をシェア

pagetop