例えば今日、世界から春が消えても。
自然と一列になった僕達3人に、彼女は変わらぬ笑顔を浮かべたまま言葉を紡いでいく。



「私は私らしく、ずっと笑顔で過ごすから!」



死と隣り合わせのまま生きてきた少女の決意の眼差しが、僕の心を打った。


「っ、そんなの当たり前でしょ!サクちゃんが笑顔じゃなくなる時は、大和が裸踊りする時って決まってるんだから」


「いや何言ってんのお前」


ごくりと涙を飲み込んだエマが、さくらに釣られて笑みを零しながら訳の分からない発言をして場の雰囲気を明るくさせる。


でも僕には、彼らが数ヶ月前の僕と同じ状況に立たされている事は分かっていた。


白血病が再発し、春を盗んだと言い張る友を前にして本当はもっと狼狽えても良いはずなのに、彼女の前では余計な涙を流さないと決めているのだろう。

否、笑顔で過ごさないと自分の中の何かが張り裂けそうで、それがたまらなく怖いのかもしれない。


どちらにせよ、今この瞬間が、僕達が2学期が始まって久々に笑顔を見せた日となった事は明らかだった。



「私もバスだから、じゃあね!また明日ー」


その後、エマの空気を読んだ冗談に笑い疲れた僕達はカフェから三手に別れた。


さくらは徒歩だからいつもの歩道橋の方へ、エマはバス停の方へ、そして僕と大和は駅の方へ。
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