例えば今日、世界から春が消えても。
そうして、僕達が無言で歩き始めて少し経った頃。


「…いやー、でもびっくりしたわ。お前、いつからこの事知ってたんだよ?」


急に大和が足を止め、僕の方を振り返った。


「5月、かな」


「え、それ結構序盤じゃね?」


さらりと答えると、彼はあんぐりと口を開ける。


「何か、飯野が春を…っていうのはまだ信じられないけど」


僕を穴の空くほど見つめていた彼は、さくらが消えていった道の方へと視線を流す。


「あいつが病気っていうのは、本当なんだな…」


僕は、神妙な面持ちで頷いた。


彼女の涙が、嘘を語るはずはないのだから。


「そっか、…うわーまじか…」


今になってようやく実感が湧いてきたのか、大和は腰に手を当てて夕焼けの美しい空を見上げた。


その反応を取ってしまうのは、仕方の無い事だと思う。


それに、僕が彼女を置いて保健室を飛び出したあの行為に比べると何倍もマシだ。


「それで、お前は飯野の事好きだろ」


「うん。……え?」


そのままの口調で信じられない事を口にした大和に心の籠らない声で同意してしまった僕は勢い良く顔を上げた。


そこに広がるのは、僕の大切な友達が作り出す優しい微笑み。


「あのさ、俺がお前とどんだけ一緒に居ると思ってんだよ」


「…1年」


「本当の事言うな」
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