例えば今日、世界から春が消えても。
ただの“持ちつ持たれつ”の関係で偽の恋人関係になった僕には、本当の彼氏になる資格はあるのだろうか。

そもそも、彼女は僕に対して恋愛感情を抱いているのか。

来年の3月で死んでしまう彼女に気持ちを伝えたところで、ただの迷惑に…。


色々と悲観的な考えがせめぎ合う中、

「“けど”?」

言葉に詰まった僕を責め立てるように、彼は僕の方へ歩幅を詰めた。


「ありもしない心配するなよ。…そうじゃなくても、お前は色んな事を諦めてきたよな。というより、諦めざるを得なかっただろうけど」


彼の言葉が何を意味しているのかなんて、一瞬で分かった。


彼は、僕が部活を辞めた原因について話しているんだ。


「これだけは絶対に諦めんな。お前の気持ちが固まってんなら、ガツンとシュート決めてこい」


大和の言葉は、優柔不断で自信のない僕を我に返すにはぴったりで。


「『プライドを捨てろ。でも、希望は捨てるな』って言葉、前にも言ったと思うけどさ」


今から追い掛けて伝えて来いよ、と、サッカー部の絶対的エースは眩しい笑みを浮かべて僕の背中を押す。


「…何があっても、希望だけは捨てるなよ」


「っ、…!」


バシン、と、背中に強い痛みが駆け巡る。

でも、それはただの痛みじゃなくて、応援の印だ。


「…ありがとう、大和」
< 137 / 231 >

この作品をシェア

pagetop