例えば今日、世界から春が消えても。
彼女は具合が悪くなってしゃがみ込んだのではなく、泣いたのが原因だと分かったから。


「ごめっ、冬真く、……っ、うわああぁんっ…!」


僕が此処に来た事で余計に涙が溢れてきたのか、手で顔を覆っていた彼女はとうとう僕の胸に顔を埋めて号泣し始めた。


「どうしたの…、?」


彼女が地面に置いたリュックを引き寄せながら、僕は彼女の背中を擦り続ける。


きっと、4人で話していた時から我慢してきた涙のダムが決壊してしまったのだろう。


彼女の心情すら推し量る事もせずに告白をしてしまった自分は、とんだ大馬鹿者だ。


「ちが、違くて、…」


ごめんね、とそっと謝ると、胸の中で彼女がぶんぶんと首を振ったのが伝わってきた。


「…冬真君の、さっきの言葉…嬉しくて、」


直後、彼女がくぐもった声で伝えてきたその内容に、

「!?」

僕は、自分の頬が一瞬にしてりんごのように赤くなった事を悟った。


「私、……今まで、沢山やりたいこと叶えてきて…悔いなんて、ないんだけど、」


嗚咽の向こう側にあるさくらの声が伝えるのは、

「誰かと付き合う事だけは、しちゃ駄目だと思ってた……!悲しくなるから、人を好きになっちゃいけないって、思ってたの…!」

死ぬまでにやりたいことリストにも書かれる事がなかった、本当の願い。
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