例えば今日、世界から春が消えても。
それよりも、彼女に毎日会えて話せて、その笑顔を隣の席で見れる事が嬉しかったから。


この時の僕の中からは、以前まで抱いていた“死にたい”なんて考えはとっくのとうに消え失せていた。


目の前で誰よりも短い命の炎を燃やし続ける人が居るのに、そんな馬鹿げた事は言っていられない。




そうして迎えた、11月中旬の休日ーさくらの3つ目のやりたいことが本当に叶う日ー。


今日は、高校の貸切となった校庭で、大和の所属するサッカー部と他校のサッカー部が練習試合をする日。


校庭の隅にはパイプ椅子が設けられており、いつかと同じく遥に家を追い出されて早めに到着していた僕は、校庭全体を見渡せる特等席を2席確保していた。


秋も深まってきた今日は晴天で、空の青と校庭に生える木の紅葉が美しく映えている。


風のせいで土埃が舞う校庭の中には既にエマと大和の姿があり、他の部員と一緒にコーチの話を聞いている。


懐かしいな、自分も少し前まではあそこに居たなんて。

無機質なボールをまるで生き物のようにコントロールしていたあの日々が、懐かしく思い出された。

なんて、僕が過去の栄光に思いを馳せていると。


「冬真くーん!おはようー!」


校門の方から、聞き慣れた高い声が聞こえてきた。
< 148 / 231 >

この作品をシェア

pagetop