例えば今日、世界から春が消えても。
「ははっ、何それ。さすが大和君。…私はね、調子が良い日は映画を観漁ってたんだよ」


「良いね。どんな映画?」


「ゾンビと幽霊の出てくるホラー映画!もう耐性付いたから、今お化けが来ても驚かないよ」


「今度お化け屋敷入った時、さくらがお化けを脅かせられるんじゃない?」


「確かに。逆に失神させちゃうかも」



暫く、僕達はそんな風にして冗談を交えながら近況を報告し合った。


さくらは今日の為に体調を整えたと言っていたから、どれだけ僕と話して笑い合っても辛そうな顔一つ見せなくて。


彼女の容姿は4月に比べると随分変わってしまったけれど、その明るい性格は消える事を知らない。


こうして話していると、彼女が今にも元気になって僕に飛びついてきそうな錯覚まで起こしてしまうんだ。



「あ、冬真君。絵見たいって言ってたよね?」


そんな叶わない未来を想像しかけていた僕の耳に入ってきたのは、さくらの思い出したような声。


そうだ、元々はそれが目的だったのに完全に忘れてしまっていた。


こくりと頷くと、彼女は微かに頷いて僕の背後を指さした。


「あそこ。ドアの所に掛かってるの、私が描いた絵。左側が入賞作品だよ」


彼女の細い手に導かれるようにして、僕はゆっくりと身体の向きを変える。
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