例えば今日、世界から春が消えても。
「…君は春を盗めたんだから、今からでも冬を盗めないの?そしたら、君は冬の分の3ヶ月も生きれる。世界が夏と秋だけになっても大丈夫だからさ、」


これが夢物語だと、そんなの自分が一番理解していた。


「さくらが死ぬなんて、考えたくもないんだ。…約束する。僕は、どんな手を使ってでも君を死なせない」


お願いだから、さくらにだけは生きていて欲しいのに。


そう言い切った僕の視界は、既に涙のベールで覆われていて。


ぼやけた視界の中、黙って僕の話を聞いていたさくらの片目から透明の雫が流れ落ちたのが見えた。


「…ありがとう、冬真君」


鼻を啜った彼女は、壊れそうに儚い笑顔を作って口を開いた。


「私、冬真君が…私と同じくらい“死”を身近に感じてた冬真君が、こんなに全力で“死”に抗ってるのを見れて、嬉しい」


僕はさくらと出会って、死んだと思っていた心を取り戻す事が出来た。


もう、死にたいなんて考えないし声にも出さない。

だから、君も──────。


「でも冬は無くせないし、無くしたくない。お正月とか節分の概念まで無くなっちゃうのは嫌だよ」


けれど、さくらが紡いだのは分かりきっていた答え。


そうだ、冬を無くすという事は冬の行事の概念まで無くなり、最悪の場合は雪まで消えてしまう。


そうなったら、日本の秩序が今度こそ崩壊してしまうんだ。


「…それにね」
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