例えば今日、世界から春が消えても。
「彼女がすぐ死んじゃうなんて、嫌だよね…。冬真君が抱えてきたものだって、私なんかよりもっとずっと大きいのに、」


彼女の骨ばった手が、再び僕の古傷に触れる。


「私ね、前までは死ぬのが怖かった。でも、今は全然怖くないんだよ」


さくらの小さな声に反応した僕は、ゆっくりと顔を上げる。


怖くない、と言っておきながら止めどなく涙を流している彼女は、僕の瞳の奥を覗いてきた。


「だって、冬真君のご両親に会えるんだもん。さっき写真で見たから、もう忘れない」


「…これ、?」


さくらの言葉を聞いて胸が詰まる想いを抱きながら、僕は一旦はバッグにしまっていた宝物を取り出した。


こくんと頷いたさくらは、にこやかに笑う僕の両親を暫く眺める。


「…天国に逝ったら、1番最初に冬真君のご両親を探すね。それで、冬真君の事を責任持ってお話するから」


掠れた声で言葉を紡いでいく彼女は、そっと涙を拭った。


「冬真君は、凄く優しくて友達思いで、サッカーも出来る上に自分の彼女が大好きで、」


止まる事のない愛情が込み上げてきて、もう言葉も発せない。


さくらの唇が、震える。


「私が見てきた中で、誰よりも強くて格好良い男の人に育ちましたよ、って…!」


「っ…!」


もう、涙が止まらなかった。
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