例えば今日、世界から春が消えても。
それに、僕には聞こえてしまうから。


『冬真君、ぜーんぶ伝わってるよ』


さくらの声が、心からの愛の叫びが。


『冬真君に出会えて、本当に良かった。私の彼氏になってくれて、ありがとう』


「違う、僕の方がっ……、」


さくらの称える笑顔は昔と比べて何倍も小さく薄くなっているのに、僕には出会った頃の笑顔しか見えてこない。


「…僕、夢が出来たんだ」


溢れる涙を拭い、最後の最期の瞬間まで彼女の姿を見届けようと目を瞬かせ、僕は震える唇をこじ開ける。


それはいつだったか、“誕生日に聞かせて”と言われていたもので。


将来に何の希望も抱いていなくて、どうせなら今すぐにでも死にたくて、春が見れないこの世で生きる意味なんてないと思っていた僕の、たった1つの夢。


「僕の夢は、…君と、一緒に生きる事だよ」


とろんと眠そうに瞬きを繰り返していた彼女の瞳が、一瞬にして大きく見開かれた。


僕は、彼女からのアルバムを見せながら言葉を紡ぐ。


「ここから29年間、僕は過去の君と時間を共にする。何かあったらアルバムを見返して、楽しかった思い出を思い出して、それで、」


30年後からは、

そう口にした瞬間、さくらの目から一筋の涙が流れ落ちた。


「君が取り戻してくれた春と、時間を共にする。毎年桜を見て、両親と君を思い出すから」
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