例えば今日、世界から春が消えても。
「………」
さくらの死亡確認がされてから、数時間が経った。
僕達3人は病院の廊下にある長椅子に座り、一言も話さずにぼんやりと宙を眺めていた。
今、病室ではさくらの両親が娘との最後の時間を過ごしている。
さくらが亡くなった直後、僕達は彼らに何度も礼を言われたけれど、礼を言いたいのはこちらの方だ。
さくらと出会わなければ、少なくとも僕はこの世に居なかったかもしれないのだから。
看護師さんに誘導された僕達は、まるで落とし穴の中を永遠に落ち続けているような喪失感と闘いつつ、この長椅子でさくらとの思い出を思い返していた。
窓の外からは夕日が見えるけれど、今は美しいなんて感情はちっとも湧き上がらない。
「サクちゃん、最期まで笑顔だったね。そういえば私、サクちゃんが痛いって言ってるところ聞いた事なかった……」
僕の右隣で、エマが震える声でぽつりと呟いた。
この数時間を殆ど泣いて過ごしていた彼女は、先程泣き止んだと思ったのに自ら墓穴を掘り返している。
「あいつ、誰よりも強かったんだな。…この1年間、凄く濃かった」
左隣に座る大和が、しみじみと同意する。