例えば今日、世界から春が消えても。
成人してから髪の毛を伸ばし始めた大和は、もう野球部と勘違いされる事はない。


さくらが亡くなった直後から真面目に勉学に取り組んだ彼は無事に体育系の大学に合格し、今ではサッカー教室のコーチとして次世代を担う若者の指導をしているという。


自分が教えた生徒がスポーツ界で活躍している姿を見る事が、何よりのやりがいなんだとか。



「僕も花持ってきたから、隣に供えるね」


此処に来る直前に花屋に寄っていた僕は、両手に抱えた花束をそっとさくらの元に置いた。


「ヤマちゃんのところ、子供何人いたっけ?」


「3人。全員男だから、しっかりサッカーやらせてるよ」


「そうだそうだ、3人だよね。私のところは双子なんだけど、高校生だから全然言う事聞かなくて」


後ろからは、僕とさくらの再会を邪魔しないように声を潜めたエマと大和の話し声が聞こえてくる。


2人は、モデルとサッカーコーチという顔の他にも、子供を持つ親という立場にもなっていた。


特に、サッカーボールが永遠の彼女だと言い張っていた大和が結婚すると伝えてきた時なんて、顎が外れたかと思った。


彼らの結婚式には、もちろんさくらの両親も招かれていて。


花が咲いたような満面の笑顔を称えたさくらの写真を持った2人が、我が子の結婚式を見ているかのように嬉し泣きをしていた姿が目に焼き付いている。
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